チルノが看病してくれた
本当にまいった。風邪をひいてしまった。毎年のことだが、今年はやけに早かった。これで予定がいくらか潰れてしまうのだが、仕方がないことだと思って諦めて眠る。
すると、ドンドン、ガララと、窓を叩く音に次いで窓を開く音が聞こえた。
「やっほーあそぼ!」
チルノちゃんだった。どうやら遊びに来たようだ。
「やあ、チルノちゃん。」
「なにしてるの?もうお昼だよ?」
「実は風邪をひいてしまってね。今日は一日、ずっと寝ていないとだめなんだ。」
「ちぇー、つまんないのー。」
口をとんがらせて怪訝な顔をする。少し申しわけない気がした。
「風邪をひいたら大変だよ。僕の近くだとチルノちゃんに伝染ってしまうかもしれないから、今日は一緒に遊べないんだ。ごめんね。」
チルノちゃんまで風邪をひいたら大変だ。これも彼女のためだと思って、今日は帰ってもらうように暗に促す。
「大変なの?あたい、ごはん作ってあげよっか!」
「・・・作れるの?」
作れるかどうかというより、火の扱いや道具の使い方を心配してしまう。なにしろ、相手は小学生と変わらないような少女なのだから。
「もっちろん!あたいってばさいきょーだからね!」
最強。強火ということだろうか。心配だ。
「チルノちゃん、どんな料理を作ってくれるんだい?」
「おにぎり!砂糖と塩、どっちがいい?」
よかった。火を扱うわけじゃないのか。やけどでもしたら大変だ。
「おにぎりは塩がいいかな。お米は昨日の残りが冷蔵庫に入ってるから、それを使っていいよ。」
「わかった!」
それにしても、おにぎりなんて久しぶりに食べるな、と思った。最近食べたのはいつだったっけ。2ヶ月前に実家に帰ったときか。
「なー、つめたいおにぎりでもいいー?」
「電子レンジがあるから、それを使ってあたためてほしいな」
「そっかー」
そんなやりとりを何度か繰り返していたら、どうやらおにぎりができたようだ。
「はい!できたよ!」
「ありがとう。おお、かなり大きいね。」
冷蔵庫に入っているぶんのお米をすべて使ったようだった。ほかほかと湯気が出て、綺麗な形をしたそのおにぎりは、なんだか食べるのがもったいないように思えた。
「たべてみて!」
興味しんしんといった感じの顔で見つめてくる。
大きくて手では持てなさそうなので、箸でちょいと摘んで、食べてみる。・・・おいしい。塩気が普通より強い気もするが、僕的にはこのくらいのほうがちょうどいい感じで好きな味だ。
「おいしいよ、ありがとう。」
「やった!」
無邪気な笑顔。その顔を見ていると、なんだか幸せになる。箸は進んで、あっという間におにぎりはなくなった。
「これなら風邪も早めに治りそうだ。治ったらまた一緒に遊ぼう。それより、チルノちゃんに風邪が感染ったら大変だから、今日はもう帰るといいよ。」
「うん、わかった!でもあたい風邪ひかないよ!」
「ははは。確かに、元気な子供は風邪をひかないものさ。」
「違うよ!あたい氷の妖精だから、そーゆーのへっちゃらなんだ!」
氷の妖精。なるほど。確かに、氷の妖精が風邪をひくなんておかしな話はないよな、と思った。
「じゃ、今日はありがとう。」
「うん、ばいばい!」
元気に羽をぱたつかせて外へ向かって勢い良く飛び出した。
ごん。
「あぎゃっ!」
窓に盛大にぶつかる。そのままふらふらと空へ飛んでいった。
・・・バカは風邪をひかない。なんていったら失礼か。はは。
もう薬を飲んで寝ることにしよう。
今日はなんだか、いい夢が見られそうだ。